bull87’s blog

田舎の暮らし〜こんなふうです〜老後をお考えの方、参考に〜Iターンを選択肢に入れてる方、参考に〜なるンかなあ・・・

『目』と『心』に気をつけて

朝井リョウ「スター」

夫が読んだ本だ。

「どんな感じ?」

「『赤頭巾ちゃん気をつけて』ってあったじゃない。ああいう立ち位置かな?」

ふ〜ん、そんなふうに表現されると読まないわけにはいかない。

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読み始めから、「頑張る」を強いられた。

そうして2、3日放っておいた。

昨夜、就寝前の歯を磨きながら、夫がジェスチャーで、多分、こう言った。

「半分くらいから面白くなるから、我慢しろ」(ジェスチャーでちゃんと通じる。)

 

うん、半分手前くらいから、一気に読んだ。

 

庄司薫という不思議な作家を、今の若い人は知らないだろう。

旧い価値観の崩壊?というか、それでいて自分たちが作り出している新しい価値を、未だ信じることができない?というか、

夫が庄司薫を持ち出したのは、こんなところだろうか。

いやいや、違うかな。

 

ものすごいスピードで次から次と新しい小さな世界が、泡ぶくみたいにあっちこっちで現われて、正しいとか正しくないんだとか、そんなことは誰も判断できない、いや、しないで、好きとか嫌いとかで、とりあえずやり過ごす。

泡ぶくを作っている若い人たち自身が、そのことを一番よく知っていて、自分の足がどこに立っているか、あるいはどこからも足が離れて浮かんで漂っている、その不安が渦巻いているのに、それさえも、風船みたいにどこかへ飛ばしてしまうしかない。

 

とりあえず、私は、私には理解しがたい人たちや世界のことを、この本で少し理解したような気がする。

そうして、トンチンカンな私の反応に我が娘がイラついたり、逆ギレするのも、なるほどなあ〜って思った次第だ。

 

で、こんな小さな世界の境界を飛び越えることができるのは、『目』と『心』だけだという、これまた、陳腐な、元の鞘に収まるみたいな、とりあえず、そういうことにしておくしかないという思考の行った先が、ある意味、寂しくもあり、ホッとしたというのは、それこそ退化じゃないかというもの足りない感じが残る作品だったな〜

 

「頑張る」のを強いられる本読みというのは、こっちがバカで、書かれている内容を理解する能力がないとき、いや〜な題材だった時、そういう時なのだが、文体が楽しめない時も、頑張りを強いられる。

 

あのお〜太宰治の「走れメロス」って、あれ、今も中学校の国語教科書に載っている。

そうして何度読んでも、唸る!

たった一文で、しかも短い!太宰はワンシーンを見せる。

 

高村薫さんはこれでもか、これでもかとしつこいほどの繰り返しと、思考の行ったり来たりでで、グイグイと読み手をその世界に引きずり込む。

 

こんな偉そうな読後感を言っちゃたから、次回作、この「スター」の『黒版』を読まないといけなくなってしもうたなあ〜〜〜

期待します!